ユウはカフェでタケシとミホと向かい合っていた。夕方の光が窓から差し込み、店内は柔らかい空気に包まれていた。けれど、心の中は少し重かった。彼の夢、アーティストになることについて話すたびに、友人たちはいつも同じことを言ってくる。
「ユウ、本当にまだアーティストになりたいって思ってるの?」タケシが真剣な顔で言った。「そろそろ現実を見た方がいいんじゃないか?」
「そうよ」とミホも同意した。「夢を見るのは悪いことじゃないけど、現実的に考えなきゃ。私たちももう将来のこと考え始めてるし、ユウもそろそろ真剣に考えるべきだと思うの」
ユウは二人の言葉を聞きながら、そっとコーヒーカップに手を伸ばした。彼らが心配してくれているのは分かっていた。二人はずっと彼の側にいて、いつも助言をくれる大切な友人だ。それでも、彼らの言葉が心に刺さるたび、ユウは小さな孤独を感じていた。
「うん…分かってるよ。現実が厳しいのも、簡単に成功できる世界じゃないことも。でも、俺にはやっぱり絵を描くことが大切なんだ」とユウは、少し戸惑いながらも自分の思いを伝えた。
その時、カフェのドアが開いて、冷たい風がふっと店内に入ってきた。街でよく見かける路上アーティストの男性が入ってきたのが目に留まった。彼は古びた服を着ていたが、どこか自信に満ちた表情をしている。ユウは何度か彼の姿を見たことがあり、そのたびに彼が絵を描いている姿が楽しそうで、自由に見えた。
「ねえ、あの人見たことあるよね?」とミホが小声で言った。「でも、あんな風になっちゃったら大変じゃない?」
タケシも首を振りながら、「そうだよ。夢を追うのはいいけど、成功しないとああいう風になるんだぞ」と続けた。
ユウは、路上アーティストの姿を見ながら考えた。確かに彼は裕福ではなさそうだ。成功しているとも言い難い。しかし、彼は自分のやりたいことを続けている。結果がどうであれ、彼の目には充実感が宿っているように感じた。
「もしかしたら、俺、あの人みたいになってもいいかもしれない」とユウはポツリとつぶやいた。
タケシは驚いて、「本気で言ってるのか?」と聞き返した。
ユウは少し笑いながら、首を横に振った。「いや、貧乏したいってわけじゃないんだ。ただ、あの人は自分の好きなことをやってる。その姿が俺にはすごく輝いて見えるんだよ。結果がどうなるか分からないけど、自分を裏切らないで生きたいんだ」
タケシとミホは言葉に詰まったように見えた。少しの間沈黙が続いた後、ミホが静かに言った。「ユウがそこまで本気なら、私たちも何も言えないわね。でも、ちゃんと応援するから」
タケシも肩をすくめて、「まあ、お前がそう決めたなら、好きにすればいい」と笑った。
その夜、ユウはアトリエに戻り、キャンバスの前に立った。友達の言葉に心が揺れることはあった。孤独を感じ、苦しい思いをしたことも数え切れない。しかし、ユウはそれでも絵を描くことをやめなかった。
「孤独を感じて苦しんだことは多々あったけど、その体験は未来の自分にとって大きな支えになるんだろうな…」とユウは思った。
彼はその孤独を通じて、自分が本当に何を大切にしているのかを知った。そして、それが彼の道を進む原動力になっていくのだと感じていた。どんなに否定されても、どんなに不安になっても、ユウは自分の夢を信じ続けた。
そして、彼はまた新しい絵を描き始めた。その筆がキャンバスに走るたびに、彼の決意は強くなっていった。
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