慎也は大学受験に失敗した。思えば、周囲に流されるように勉強し、何となく受験を迎えた。
自分が本当にやりたいことも分からないまま、ただ合格を目指していた。
「このまま浪人する意味があるのか……?」
ふと足が向いたのは、駅前の小さなワインバーだった。カウンターに座ると、隣にはワインを片手に本を読んでいる男がいた。年齢は40代くらい、静かで洗練された雰囲気を持っていた。
「悩んでる顔してるな」
男が突然話しかけてきた。慎也が軽くうなずくと、男はワインを注ぎながら続けた。
「挑戦しない理由を探しているうちは、何を選んでも不安がついてくるさ。」
「でも、失敗するのが怖いんです」
「ワイン作りも同じだよ。発酵に失敗することもあるし、熟成の途中で味が変わることもある。けどな、それを恐れてブドウを育てなければ、ワインは生まれない。挑戦するからこそ、経験が蓄積され、より良いものが生まれるんだ。」
慎也はグラスの中のワインを見つめた。失敗を恐れて動かないままでは、何も変わらない。思い返せば、自分は本気で何かを選び取ったことがあっただろうか?
翌朝、慎也は新しいノートを買い、もう一度自分が本当にやりたいことを考え始めた。大学に行くのか、別の道を選ぶのか。それはまだ分からない。でも、迷って立ち止まるのではなく、動きながら答えを見つけよう。
あの夜のワインの余韻と共に、慎也の新しい挑戦が始まった。
彼はふと、あの男の言葉を思い出す。
「勇気があるから挑戦するのではなく、挑戦するから勇気が湧いてくる。」
慎也は静かに微笑みながら、一歩を踏み出した。
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